『ここに来てから、ほぼ一年だよ。いくらお由がいるからって、お紺に指一本触れないなんて、考えられないじゃないか。今でこそお紺も安心してるけど、初めの頃なんて、それこそ一発やっちまう機会はあったと思うよ? 何たって、お紺も初めは貫七に誑かされたんだから』

 どんだけ女ったらしなんだ、という言い方だ。
 言われた貫七は、微妙な表情でおりんを見る。

『今まで宿を借りた女って、大抵抱いてきたじゃないか。初めはお紺もめろめろだったんだから、抱いちまえば良かったんだ』

「今までの女は、向こうから誘ってくるんだから、応えてやるべきだろ。宿借りてるんだし。でもお紺ちゃんは、そんな積極的じゃなかったし」

『めろめろな時に、ちょいと強引に誘えば、ころっと落ちたんじゃないの? 何で初めっからお紺には手を出す素振りも見せなかったの?』

「……いや……何となく……」

『貫七がそんなんだから、お紺が本気になっちまうんだよ』

 気が付けば、貫七の膝頭におりんの爪が食い込んでいる。
 おりんも興奮しているようだ。
 声も高くなっている。

「何を怒ってるんだよ」

 さりげなく膝を引き、貫七はおりんの爪から逃れた。
 おりんは昂りを抑えるためか、何度か息をつくと、べたっとその場に伏せた。

『お紺は貫七に、本気で惚れてるんだよ。だから出て行って欲しくないんだ。でも貫七には、その気はないんだろ。だったら放っときゃいい』

 ま、ここにゃ帰って来られないだろうけどね、と呟き、おりんは目を閉じた。