貫七にとっては、桔梗屋がどうなろうと、どうでもいいのだ。
 興味はその祈祷師にある。
 人の性別を変えるほどの術者なら、おりんの魂を身体に戻せるかもしれない。

「どこにいるんだい、その祈祷師ってのぁ」

 ぐいぐいと政吉に迫る。
 やっと掴んだ可能性だ。
 これを逃す手はない。

「そ、それは……」

 困ったように言う政吉に、さらに顔を近づける。

「何を勿体ぶってやがんでぇ。ぐずぐずしてたってしょうがねぇだろ」

 迫る貫七に圧されるように、若干身体を仰け反らせていた政吉は、小さく、ええ、まぁ、と呟き、視線を彷徨わす。
 そして首を傾げた。

「……知らないのです」

「……は?」

「話を聞いただけで、私がその祈祷師に何を頼んだわけでもないですし」

「……」

 貫七の動きが止まる。
 だがよく考えればそうなのだ。
 政吉は、旦那の囲い者が腹に術をかけたと言っていたと聞いただけで、政吉自身がその場にいたわけではない。

「でも有名なんだろ? お前さんは、そんな祈祷師のこと、それまで聞いたことはなかったのか」

「ないですよ、そんな怪しげな祈祷師。まぁそういうのに興味がないから余計なんでしょうけど。女子のほうが、こういうことには詳しいんじゃないですかね」

 なるほど、確かに女子は占いなど怪しげなものを好む。
 よし、と貫七は、政吉の背を叩いた。

「任せておけ。俺が炙り出してやる」

 女子相手なら得意分野だ。
 にやりと笑い、貫七は政吉を伴って茶屋に戻って行った。