「何言ってんだいっ! お前さんがここに居着いてるのは、用心棒を請け負ったからだろうが! 働かないなら、叩き出すよ!」

 窓に向かって怒鳴る娘---お紺に、男は苦笑いをこぼした。

「やれやれ。折角俺が、相棒を遣わして窮地を救ったってのによ。つれないねぇ」

 ぶちぶち言いつつ、窓から姿が消える。
 そして程なく、階段を下りてくる軽い足音が、店の奥から聞こえた。
 おりんが、お紺の腕から地に降り、店のほうへと足を向ける。

「おぅおりん。ご苦労だったな」

 足元に来たおりんを抱え上げたのは、先の男。
 背が高く、細身の身体を淡い色の着流しが包んでいる。

 男が現れた途端、ぱっと辺りが明るくなったようだ。
 それほど華やかな雰囲気を持っている。

「ちょいと! 言っておくけど、実際働いたのは、あんたの相棒! あんたは何したわけでもないだろ。うちだって単なるただ飯食いを置いておくほど物好きじゃないんだ。ここにいるなら、ちゃんと頼まれた仕事ぐらい、こなしとくれ!」

 そんな男の魅力を蹴散らすように、お紺がきゃんきゃんと喚く。
 男は、やれやれ、と大袈裟に肩を竦めると、ひょいとお紺の顎に手をかけた。

「お紺ちゃんも、そんなかりかりするんじゃねぇよ。可愛い顔が台無しだぜ?」

 ずいっと顔を近づけ、至近距離で言う。
 さすがのお紺も、この色男に迫られては平静でいられない。
 赤くなって飛び退いた。