「その猫……。どう普通でないのです?」

 興味を覚え、おりんを見つめたまま、政吉は問うた。
 貫七は軽く肩を竦める。

「普通の猫より、人の気持ちを読み取れるってのかね」

 聞いた限りでは、この政吉と娘(若様)の間に、そういった妖しいニオイはないようだ。
 単なる女装好きの若様に振り回される手代といったところか。
 つまらない、というのが本音だ。

「それは長年共に暮らせば、猫とてそうなるものなのでは?」

「お前さんが、娘さんの気持ちを汲めるようにかい」

 何だかんだで、やはりこの政吉は、娘を想っているのではないか。
 政吉は、ため息をついた。

「お嬢様のお気持ちは、何も私でなくてもわかりますよ。今更男に戻ろうにも、もう世間的に桔梗屋の子供は娘だ、と認識されております。それが悩みの種なのですよ」

「しょうがねぇんじゃねぇか? そう仕向けたのは親だろう?」

「そうなんですけど、このままではお嬢様が不憫なのも確かです」

「不憫ってだけで、家出してきたってんかい?」

「そんな単純なものでは」

 最早興味を失った貫七に気付いたように、政吉は早口で事情を説明した。

「実は、旦那様が、他に女子を囲っておりましてね。その女子が懐妊したらしいのですよ。それで、その女子が旦那様を抱き込んで、己がお店を乗っ取ろうと画策しているのです」