「赤ん坊の頃の話だろ」

「初めはそうでした。でも、長かった、と言いましたでしょ。そのままってことです」

「……おかしいじゃねぇか」

「ええ」

 渋面のままの貫七に、政吉は曖昧に笑った。

「あまりに似合うというのと、まぁ先にも申しましたが、お身体が弱かった。ただ一人の跡取りです。旦那様も奥様も心配なさって、そのまま女子として育てたのです。そんなことだけでお身体が丈夫になるわけもないのに。まぁ庶民にはその辺のことはわかりませぬが、大店の跡取りともなれば、それほどの大事(おおごと)なのでしょう」

 少し、政吉の言葉に棘が含まれる。
 どうやら桔梗屋の若様というのは、相当甘やかされて育ったらしい。
 幼い頃から働きに出ている奉公人からすると、面白くないことも多いだろう。

「お前さん、あの娘さんと仲良いわけじゃねぇのかい?」

 見たところ、常に娘を気遣っているように見えるし、何の事情があって二人で旅をしているのかはわからないが、娘の正体を知っていることからしても、店の中で一番信頼されているということではないのだろうか。

「仲が良いとか、そういう問題ではないですよ。何と言っても、主従関係ですから」

 冷めた風に言う政吉は、やはりどこかつっけんどんだ。
 まぁいいけど、と貫七もそれ以上は突っ込まず、話を進めた。