「く、くそっ。畜生のくせにっ」
捨て台詞を残し、男は去って行った。
猫は相変わらず、男の後を睨みながら、シャッシャッと毛を逆立てている。
まるで男の言うことがわかっているようだ。
「おりん。ありがとう」
やがて娘が、猫をそろ、と抱き上げた。
ちろ、と娘を見ると、猫は、ふん、と鼻を鳴らして大人しくなる。
「ところでおりん。お前の相棒は?」
ひょい、と視線を上げる娘に被るように、店の奥から、ぬっと老婆が顔を出す。
「ったく、用心棒のくせして、肝心のときに出てこないたぁ、への役にも立ちゃしない」
しわくちゃの顔を歪ませ、じろりと上を向く老婆は、お由(よし)という。
するとそれに応えるように、通りに面した二階の窓が、すらりと開いた。
「ご挨拶だねぇ。ちゃあんとおりんをやったじゃねぇか」
低い声と共に、一人の男が顔を出す。
若いが、少年ではない。
二十歳そこそこといった年齢だ。
だが用心棒が務まるようには見えない。
男の目をも惹き付ける、恐ろしいまでに整った顔からは、とても腕っぷしなど期待できそうもない。
しかも。
「おいそれと俺が出て行っちゃ、余計ややこしくなるだろ。お紺だって自分に言い寄ってた男が、ころっと俺に参っちゃ、女として腹が立つだろうしなぁ」
自信たっぷりに、ぬけぬけと言う。
お紺の柳眉が跳ね上がった。
捨て台詞を残し、男は去って行った。
猫は相変わらず、男の後を睨みながら、シャッシャッと毛を逆立てている。
まるで男の言うことがわかっているようだ。
「おりん。ありがとう」
やがて娘が、猫をそろ、と抱き上げた。
ちろ、と娘を見ると、猫は、ふん、と鼻を鳴らして大人しくなる。
「ところでおりん。お前の相棒は?」
ひょい、と視線を上げる娘に被るように、店の奥から、ぬっと老婆が顔を出す。
「ったく、用心棒のくせして、肝心のときに出てこないたぁ、への役にも立ちゃしない」
しわくちゃの顔を歪ませ、じろりと上を向く老婆は、お由(よし)という。
するとそれに応えるように、通りに面した二階の窓が、すらりと開いた。
「ご挨拶だねぇ。ちゃあんとおりんをやったじゃねぇか」
低い声と共に、一人の男が顔を出す。
若いが、少年ではない。
二十歳そこそこといった年齢だ。
だが用心棒が務まるようには見えない。
男の目をも惹き付ける、恐ろしいまでに整った顔からは、とても腕っぷしなど期待できそうもない。
しかも。
「おいそれと俺が出て行っちゃ、余計ややこしくなるだろ。お紺だって自分に言い寄ってた男が、ころっと俺に参っちゃ、女として腹が立つだろうしなぁ」
自信たっぷりに、ぬけぬけと言う。
お紺の柳眉が跳ね上がった。


