「私は近江、桔梗屋の手代、政吉(まさきち)と申します」

「桔梗屋……」

 知らない名前だ。
 が、政吉はまさか知らないとは思っていないようで、店の説明はしない。
 巷では結構な大店(おおだな)らしい。

「で、つーことはあの娘さんは、その桔梗屋のお嬢さんってことかい」

 やっぱり手代と主の娘の駆け落ちか? と思った貫七だが、政吉は少し微妙な顔をした。

「お嬢様は……まぁ確かに旦那様の跡取りではありますが」

 視線を彷徨わせながら、政吉が言う。
 やはり娘に何かあるのだ。

 貫七は辛抱強く、政吉が口を開くのを待った。
 しばらくしてから、政吉が言いにくそうに、貫七を見る。

「あのぅ。先程あなた様は、飼い猫のことを、普通じゃない、と仰いましたね。それは、どういった……?」

 いきなり話が変わったような。
 貫七は、きょとんと政吉を見た。

「いえ、あの。もしや物の怪や妖怪の類とか」

 政吉が言い募る。
 聞き様によってはふざけた内容だが、どうやら政吉は真剣のようだ。
 これからの話に、何らかの関係があるのだろう。

 これからの話、ということは、娘のことだ。
 貫七は少し考えた。

 おりんのことを、どう話せばいいのか。
 そもそもこのような他人に、べらべら話していいものか。
 誰も本気にはしないだろうが、興味本位でおりんにいたずらされても困るのだ。