「ここの家の猫かしら」

 男が安心したように周りを見、ふと部屋の襖に目をやった。

「ああ、あそこが少し開いております。あそこから入り込んだのでしょう」

 少し開いた襖を指し、男が言う。
 娘も特に警戒することなく、おりんを床に下ろした。

「猫なんていた?」

「確か、若い男の人の傍にいたような」

 男の言葉に、ああ、と娘は頷いた。

「いたね、そんな人」

「格好良い人でしたねぇ」

 おりんは、また少し驚いたように、娘を見た。
 どうも、娘よりも男のほうが、貫七に参っている。

 確かに男をも虜にする貫七だ。
 この男の心を奪ってもおかしくないが。

「……お前、衆道者だったのかい」

 冷めたように、娘が言う。
 男は慌てたように、顔の前で手を振った。

「とんでもない。わたくしは、真っ当ですぜ。ただあのお人だけは、男のわたくしまでもが、何か……」

 最後のほうは、ぼそぼそと言う。
 これが普通なのだ。

 おりんは娘をじっと見た。
 にゃあ、と鳴いて、膝頭に前足を置いてみる。
 だが娘は、おりんをさらに向こうに追いやった。

「駄目駄目。さぁもう寝ましょう。お前も飼い主の元へお帰り」

 さっさと布団を被ってしまう。
 男がおりんを抱き上げて、廊下に出した。

 ち、とおりんは、ぱしんと閉められた襖を睨んで、二階に戻って行った。