「じょ、冗談じゃないわよ! 大体うちは、宿屋じゃないのよ!」

「んん、でも俺が最初に来たときは、お紺ちゃん、快く泊めてくれたじゃねぇか」

「あ、あれはっ! そうだ、あれを許したから、あんた、当たり前のように居座ったんじゃない!」

「お紺ちゃんだって、出て行けとは言わなかったぜ」

 うぐぐ、とお紺が口を噤む。
 そこに、にゅっとお由が顔を出した。

「おんや、こりゃまた、ただ飯食いが。まさかまたうちに転がり込む気じゃないだろうね?」

「お、おお、お由さん。お元気そうで何よりだ」

 ちょっと気圧され、貫七がぎこちない笑みをお由に向ける。
 お由はぎろりと、貫七の後ろに視線を滑らせた。

「しかも今度は女子連れ」

「そうよっ! うちは連れ込み宿じゃないのよ!」

 お由の言葉に我に返ったお紺が、持っていた箒を振り上げた。

「そ、そんなんじゃねぇよ! お紺ちゃんだって、おりん知ってるだろ! まぁ今のおりんは俺の女房だけど。でもだから、連れ込み宿じゃなくて、しっかりした夫婦モンだ! 何も恥ずかしいことなんてねぇよ!」

「夫婦ですって……?」

 ぴたりとお紺の動きが止まる。

「ああ。ほら、お紺ちゃんにゃ世話んなったし、ちゃんと紹介しておかないとな。可愛いだろ?」

 にぱ、と笑って、傍らのおりんに顔を寄せる。
 その瞬間。

 ぶち、とお紺の額が音を立てた。

「馬鹿ーーーっっ!!」

 一際大きな声が上がり、星が輝き始めた空に、竹箒が舞った。



*****終わり*****