「俺は自分で追い払えたんだ。なのに、お前を助けなかった」

 ずっと謝りたかった。
 今も目の前で無数の山犬に襲われるおりんの姿は、脳裏に焼き付いて離れない。
 何度夢に見ても、やはりどうしても己はその山犬に向かっていく勇気はないのだ。

「その分、ずっと一緒にいてくれた。それだけでも、おいら、嬉しかったよ。あのさ、おいら、自分が女だって、一年前ぐらいに気付いたんだよね」

 ぐい、と涙を拭って、おりんは少し恥ずかしそうに俯いた。

「どうしようって。貫七に嫌われたらって思うと、おいら、怖くて。戻れるかもしれないってなったときも、嬉しい反面、怖かったんだよね」

 確かに伏見で術者の噂が現実味を帯びてきたとき、おりんは手放しで喜ぶ感じではなかった。

「現に今もさ……。貫七、ぎこちないし」

「そ、それは……」

 忘れていた動悸がぶり返す。
 が、もう変にこじらせたくない。
 貫七はおりんの肩を掴む手に力を入れた。

「おりんがこんな可愛いなんて、思わなかったしっ」

 赤い顔で言う貫七を、おりんは不思議なものを見るような目で見た。

「何言ってんのさ。貫七、女なんか慣れてるだろ? おいら、まだ子供だし」

「お、俺だってそう思ってたよ。でも、ヒトのお前を見てると、どきどきして苦しくなる。いや、ヒトに戻る前……ちょっと前から、何かお前は違ったんだ。何で俺はこんなにおりんを気にかけるんだろうって思ったときに、もしかしてこれは、恋なんじゃねぇかって」