「ほ、ほら。とりあえずは、落ち着こうや。お、お前、身体の調子はどうよ」

 囲炉裏の前に腰を下ろし、おりんを呼ぶ。
 おりんも家に入り、ちょこんと座った。

「ま、町に出るっても、また旅だよなぁ。どこに行くかな」

 どうにも間が持たず、貫七は喋り続ける。
 やはり視線は微妙に泳いでしまう。
 何か恥ずかしく、おりんを見ることが出来ないのだ。

「おりん。お前、行きたいところとかねぇか?」

 不自然に笑いながら言う貫七に、つ、とおりんが顔を向けた。
 その途端、どきんと貫七の胸が跳ねた。

「お、おりん……」

 真っ直ぐに見られると、目が離せない。
 心の臓が口から飛び出すんじゃないかというほど暴れ回り、貫七は息が苦しくなった。

「……貫七……」

 おりんの口が動いた。
 初めて聞く声。
 高く、か細い声に、貫七は頭の中で、こういうのを鈴を振るような声だというんだ、と理解した。

「おいら、やっぱり戻らないほうが良かった……?」

 人の口に慣れないのか、ゆっくりと喋る。
 ぼーっとした頭でおりんの声を聞いていた貫七は、言われたことがすぐには脳みそに入らなかった。
 何も言わない貫七に、おりんの目に涙が浮かぶ。

「貫七、困ってるもの。やっぱり女だから、嫌なんだね」

 ぽろ、とこぼれた涙に、一気に貫七の脳みそが動き出す。