「……ほんとに天狗だったんだなぁ……」

 ぼんやりと呟いてその姿を見送った貫七は、さてどうしたもんかと空を見上げたまま考えた。
 すでに夕日は沈み、空には星が輝き始めている。

 とりあえずは家に入って、今夜はゆっくり眠るべきだろう。
 町に出るにしても、明日の話だ。

 貫七は大きく息を吸うと、覚悟を決めて振り向いた。
 少し後ろにいたおりんと目が合う。

---だ、駄目だ……---

 どうしても、おりんを見ると鼓動が跳ね上がる。
 顔が赤くなり、慌てて貫七は下を向いた。
 覚悟を決めてもこの様(ざま)である。

---散々女を誑かしてきた俺が……。お、おりんなんて、ずっと一緒にいたじゃねぇか---

 今更女子相手に、こうも初心い反応をしてしまうとは。
 しかも別に相手が絶世の美女というわけでもない。

 可愛らしいが、まだまだ幼い小さな女子である。
 しかも、幼馴染だ。

---そ、そうだよ。おりんはまだ、そう成長もしてねぇんだから、男と思えばいいじゃねぇか。昔は俺も、おりんを男だと思ってたんだし---

 まだ幼いおりんであれば、男と思い込もうとすれば思えるはずだ、と思い至り、貫七は微妙に顔を上げて、おりんの横をすり抜けた。