かさりとも音のない深夜。
 おりんは薄く開けておいた二階の襖の間から、するりと廊下に出た。

 ちらりと部屋を振り向くと、闇の中から貫七が見返している。
 だが口は開かない。
 身体も横たわったまま、小さく顎を引いた。

 僅かな気配も起こさないようにしつつ、お互い合図を送り合うと、そのままおりんは階段を下りて行った。
 おりんは猫なので、元々足音はない。
 その辺のものに躓かないことだけ気を付けながら、件(くだん)の部屋の前に来る。

 あらかじめ、お紺が襖を少しだけ開けておいてくれた。
 そろ、と中を覗く。
 特に変なところはなく、闇の中に、布団が敷かれている。

 しばらく中の状況を窺ってから、おりんは中に忍び入った。
 枕元に回り、娘を確かめる。
 ちらりと横の布団に眠る男の様子も窺う。

 しばらく二人を窺っていたおりんは、やはり妙な気分になった。

---こんなの、貫七じゃあり得ないよね---

 幼い頃から猫として生きてきた。
 だがやはり、心は人である。

 ましてずっと一緒にいたのは、もてる貫七だ。
 色恋のこともわかっている。

 だからこそ、本気で想い合っている男女が、このような状況で別々にいることが、どうもおかしく思えるのだ。
 駆け落ちしてきた二人なら、それこそ先はどうなるかわからない。

 だったら今こそ、想いを存分に遂げ合う絶好の機会ではないか。
 何を律儀に、別々の布団で寝ているのだろう。