太郎坊と小薄が小屋に戻ると、がばっと貫七が身を乗り出した。

「おっ小薄様っ! お、おりんは? おりんはどうなったんで?」

 四つん這いで小薄の足に縋り付く貫七は、ふと小薄が抱いているものに目をやった。
 黒い猫。

「おりん……。駄目だったのか……」

 黒猫を撫でて悲しげに言う貫七だが、黒猫はきょとんとしている。
 そして、にゃあぁん、と鳴くと、ごろごろと気持ち良さそうに、貫七の手に頭を擦り付けた。

「そんな、すっかり猫のふりなんかしなくても……」

 涙を浮かべて言う貫七は、小薄から黒猫を受け取ると、ぎゅむ、と抱き締めた。
 にゃ、と猫が、少し暴れる。

「……あー……」

 貫七の様子を見ていた小薄が、ごほん、と咳払いをしつつ、口を開く。

「早とちりするでない。おりんは無事だと、あれほど言ったであろ」

「でも……。現におりんは猫のままじゃねぇですか。魂と身体が無事でも、入れ替えはまた別物なんじゃねぇんですかい?」

 腕の中の黒猫を抱き締めて言う貫七は、何だか一気に幼くなったようだ。
 ぼろぼろと涙を流しながら、小薄に詰め寄る。
 おや、と小薄は、貫七を見た。

「お主……。ちょっと顔が変わったの」

 貫七の顎を持ち上げるように扇を当て、まじまじと覗き込む。