「……ん……」

 ぼんやりと、おりんが目を開ける。
 何だか視界がはっきりしない。
 身体の感じも何だか違う。

 少し身体を動かしてみて、妙な寒さに気が付いた。
 くしゃん、と一つくしゃみをすると、それを待っていたかのように、ぽ、と狐火が灯った。

「お気付きかえ」

 目を動かすと、すぐ横に小薄がいる。
 何だか見え方が違う、と思い、上体を起こそうとした。
 が、やけに頭が重い。

「う~ん……」

 呟いて、はっとする。
 声も違う。

 そろそろと両手を掲げてみると、目に映るのはヒトの手だ。

「……!」

 息を呑んで、じっと己の手を凝視するおりんを見ていた小薄が、ばさ、と着ていた着物を脱いでおりんにかけた。

「髪はともかく、そろそろ身体は乾いたじゃろ」

 言いつつ、手を添えておりんを起こす。
 上体を起こして初めて、おりんは己の身体を見た。
 紛うことなき、ヒトの身体だ。

「無事に戻ったぞえ」

 にこりと笑う小薄に導かれ、おりんは慣れぬヒトの足で、洞窟を出た。