「そのような目をするでない。大丈夫じゃよ。貫七がお主を想う気持ちは本物じゃ」

 にこりとおりんに笑いかけ、小薄は、さっと扇を振った。

「さて。では結界を解いて貰おうか」

「……本当に、大丈夫なんでしょうな?」

 念を押してから、太郎坊は首にかけた数珠を手に持ち、何やら唱えながら、両手の中で転がし始めた。
 ざわざわと、周りの木々がざわめき、鳥が飛び立っていく。

「破っ!!」

 気合と共に、洞窟に向かって数珠を突き出すと、不意にぱし、と音がし、洞窟の入り口に火花が散った。

「むわっ!!」

 途端に小薄が、鼻を押さえる。
 普通の人間であれば全く気付かない程度だが、さすがにお狐様にはわかったらしい。

「こ、これは……。確かに洞窟に結界をしておらなんだら危ういな」

「ひ、酷くなっておる。おりん~」

 だだだだっと洞窟の奥に駆けて行こうとする太郎坊を、慌てて小薄が引き留める。
 結界を解いた途端、漂ってきたのは血の臭いだったのだ。

「落ち着きなされ。おりんは大丈夫だと言っておろうが」

「しかし! このように血が流れて、大丈夫とは思えぬ!」

「だから! とにかくおりんを身体に戻せばわかる話じゃ! ちぃっと待っておれ!」

 イラッとしたように怒鳴り、小薄は太郎坊を後ろに投げ飛ばすと、さっさと洞窟の中へと入って行った。