「やめておくれ。そんなことで貫七さんがしょっ引かれるのはご免だよ」

「おや。お紺ちゃんは俺が心配か」

「ていうか、お前さんはこの家の用心棒だろ。貫七さんが、そんな騒ぎを起こしてしょっ引かれちゃ、たちまちこの茶屋だって、醜聞の的だよ。ただでさえ、宿場からは外れてるんだ。あたしらなんか、あっという間に干からびちまうよ」

 うむむ、と貫七も考え込む。
 そこまでここを大事にしているわけではないが、確かに世話になっている恩はある。
 お由やお紺の過去は知らないが、貫七のような根無し草生活をしてきた者ではないだろう。

「お紺ちゃんのことは、俺が面倒見てやる……と言っても、俺がしょっ引かれちゃ意味ねぇな」

「もぅっ。何言ってんだよっ」

 赤くなって、お紺はばしんと貫七の腿を力任せに叩いた。
 その時、すらりと音なく襖が開いて、お由が顔を覗かせた。

「言うておきますがな。嬢様には、もれなくこのお由めもついておりますぞ。そこをお忘れなく」

 どこから話を聞いていたんだか。
 貫七は曖昧に笑って誤魔化した。

「でも、夜這いも却下となると……」

 残念そうに言う貫七の目が、お紺の膝のおりんに落ちる。
 おりんは少し首を傾げ、貫七の膝に移る。

「了解、か。頼んだぜ」

 背を撫でる貫七を見上げ、おりんは、なおも首を傾げ続けた。