「医者に診られちゃまずい何かがあるってことか」

 きらり、と目を光らせた貫七に、お紺は渋い顔を向ける。

「貫七さん。おかしな真似しないでおくれよ」

「おかしな真似って何だ。医者に診られてまずいってことは、身体に何かあるってこった。身体を見るにゃ、夜這いが一番だぜ」

「風呂でもいいじゃないか」

「風呂場、覗けると思うか? それが不可能だってことは、お紺ちゃんも実行済みで知ってるだろ」

 事実、不審に思ったお紺は、娘が風呂場に入ったとき、世話を買って出たり、着替えを持って行ったりして、様子を窺おうとしたのだ。
 だが連れがいつも手前で止める。
 まだ床から起きられない状態なのだから、身体を洗うのを手伝ったほうがいいと言っても、大丈夫の一点張りだ。

「それに、こそこそ覗きなんかしてられるか。そんな趣味、俺にゃないぜ」

 やるなら堂々とやる、と胸を張る貫七に、お紺もおりんも冷めた目を向ける。

「でも貫七さん。夜だって、すぐ横にあの男がいるだろ? 夜這いこそ、簡単じゃないよ。それに、娘さんが大層な家の子であってごらんよ。大事(おおごと)になっちまったらどうすんだい」

「へ。男と夜中に出歩くような娘だぜ。そんなことで騒いでみろ。あることないこと、世間様に言いふらすぜ」

 馬鹿にしたように言う貫七の膝頭を、お紺はぺしぺしと叩いた。