「そ、そんなこと、おおお、おかしいじゃねぇか。お、俺は衆道の気(け)なんかねぇ。ま、ましておりんは猫だし、ヒトのおりんなんざ、それこそガキの姿しか知らねぇよ」

「でもお主、それこそおりんを、ずーっと守ってきたのじゃろ? それはほれ、何かこう、身体の奥底で感づいておったのではないか?」

 扇の先で、とんとんと貫七の胸をつつく。

「お主も太郎坊の弟子じゃ。そこいらの人間よりも、鋭いはずじゃ」

『小薄様ー』

 貫七の心にぐいぐい入っていく小薄を、おりんが堪らず遮った。
 ちら、とおりんに目を落とし、小薄は、ふむ、と頷くと、貫七の腕から再度おりんを抱き取り、木の葉を振り返る。

「のぅ木の葉。ちょいと見ものよのぅ。こ奴の反応如何では、おりんをお前が貰い受けるのも、可能やもしれぬぞ」

「そうですねぇ。ていうか色の道には長けても、恋の道に関しては、意外に初心(うぶ)なんだねぇ、あんた」

 意味ありげに笑い合う小薄と木の葉を、貫七は、ぎ、と睨んだ。
 何のことやらさっぱりわからないが、一点だけ、聞き捨てならないことがあったのは理解した。

「言っておきますがね。何があっても、おりんを渡すことだけは、絶対に許さねぇ」