「駄目ですっ! さぁ小薄様、師匠の元へ来てください!!」

 ぐいぐいと引っ張る貫七に、小薄も木の葉もきょとんとする。

「え~? 折角の焼き立てなのに。おりんは何ともないと言うとるじゃろう」

「そうだよ。そんなに急がなくても。ほら、特別にあんたにもあげるよ」

 呑気に言うお狐様二人(匹)を、貫七は、ぎ、と睨んだ。
 必死故に恐ろしい。
 木の葉が小さく、ひぇ、と呟いた。

『貫七。おいらはほんとに、大丈夫なんだよ。小薄様の診立てに、間違いはないよ』

 おりんが小薄の腕から貫七の腕に移りながら言う。

「そらぁ、小薄様のことを疑うわけじゃねぇけど。でもすっかり安心なんて出来るわけねぇだろ。何といっても、師匠が焦ってるんだぜ。一番傍で見てる人がビビってんのに、安心なんて出来るかよ!」

 噛みつく勢いで言う貫七を、おりんは微妙な表情で見上げた。

「お前はほんとに、おりんを大事にしているのだねぇ」

 心底感心したように、小薄が言う。
 そこには先程までの軽さはない。
 貫七は、こっくりと頷いた。

「何度も言ってる。おりんは何より大事だ。俺にとっては、自分よりも大切なんだよ」

「ほおぉ~。お主ほどの男にそのようなこと言われれば、女子は蕩けようなぁ。したが、何故じゃ?」

 不意に鋭い目になって、小薄がびし、と閉じた扇を貫七の胸に突き付けた。