「あいつも知らぬのか」

『……だっておいら、自分でも知らなかったもの』

「気付いたときに、言わなかったのか?」

『……引かれそうで。おいら、貫七には嫌われたくない』

 小薄の横で、おりんは小さくなる。
 ふ~む、と小薄は考えた。
 落ちた沈黙に耐え兼ね、貫七が口を開く。

「小薄様っ。どうなんですっ?」

 貫七のほうは必死だ。
 真剣な表情で、真っ直ぐに小薄を見る。

 真剣な者を笑うのは良くない、と心の中で思いつつも、小薄は込み上げる笑いを抑えきれず、慌てて扇を開いて顔を隠した。

「心配はいらぬよ。おりんは、至って健康じゃ」

 え、と貫七が拍子抜けしたような顔になった。

「で、でも、血塗れって……」

 あれほど焦った文字で、文字通り飛鳥の速さで文を送ってきたのだ。
 間近で見ている者がそれほど焦っているのに、至って健康とはどういうことか。
 良かったことは良かったが、だからといってすぐに安心は出来ない。

「とにかく、おりんに異常はない。血塗れなのは、まぁ……おりんが身体に戻れば治る……いや、治るわけはないわな。と、とにかく、おりんが戻れば解決することじゃ」

 何かぶつぶつ言いつつも、小薄は半ば強引にそう言うと、傍らのおりんを抱いて、すっくと立ち上がった。