『な、何だよぅっ! そんなわしわし触らなくても、何ともないよぅっ』

 暴れるおりんをものともせず、貫七は一通りおりんを見、次いで小薄に目を戻した。

「師匠が言うには、おりんの身体が血塗れだそうで」

「血塗れ?」

 こくりと大きく頷き、貫七は懐から昨日受け取った文を出した。
 それを、小薄に差し出す。
 が、小薄は眉を顰めた。

「天狗の妖気が染みておるなぁ……」

 ぶつぶつ言いつつ、ずい、と扇を差し出す。
 それに乗せろという意味のようだ。

 貫七が扇の上に文を置くと、ようやくそれを引き寄せて、親指と人差し指で端を摘む。
 まるで汚いものを触るようだ。

 ぺろんと広がった文を読んだ小薄は、そのままちらりとおりんに視線を移す。
 そして、ちょいちょいと手招きした。

「小薄様っ。おりんは大丈夫なんでしょうか? どういうことなんです? 何か、わかりますかい?」

 身を乗り出して、貫七がまくし立てる。
 うるさそうに貫七を見、小薄はすぐ前に来たおりんを抱き上げた。

「う~むむむ? ……ふむ」

 顔の前で、びろーんと伸びたおりんをまじまじ見つつ、小薄はそのままの状態で、おりんと目を合わす。