男は驚いたような顔で、しばしぽかんとしていたが、やがて、どん、と傍の柱に拳を打ち付けた。

「おぅ! 何なめた口利いてんだ。こんな糞みてぇな茶屋にいる女なんざ、飯盛り女に決まってるだろうが! 澄ましてないで、やることやらせろや!」

 怒鳴ると、男は乱暴に娘の腕を掴んだ。
 娘の顔が引き攣る。

 恐怖からではない。
 小汚い男に触れられたからだ。

「触るなってんだ! この△×*〇!!」

 先程までの愛想はどこへやら、最早文章にするのも憚られるような暴言を吐き、娘は掴まれた腕を、滅茶苦茶に振り回す。
 男の顔が、憤怒で真っ赤に染まった。

 男が今にも娘に手を上げようとしたとき。
 不意に何かが降ってきた。

「ぎゃあああっ」

 いきなり男が叫び声を上げて、娘の手を離した。
 そして顔に貼り付く落ちてきたモノを、必死で引き剥がそうとする。

「うにゃにゃにゃにゃっ」

 落ちてきたのは、通常より大きな猫だ。
 猫はひとしきり男の顔を掻きむしると、己を掴もうとする手をさらに引っ掻いて、とん、と地に降り立った。

「ね、猫……?」

 通常より大きいとはいえ、当然ながら人よりはかなり小さい。
 たかが猫に狼狽えたのが恥ずかしくなったのか、男は憎々しげに己の足元を睨み付けた。

 だが、その猫がまた、シャーッと牙を剥くと、思わず後ずさる。