「お守りだよ。あんたが帰れば、おいらの神通力が発揮されて、女だった過去は皆気にならなくなる」

 手をのけると、伊之介の額に、小さな痣が出来ていた。
 米粒のような小さなものが、眉間にある。

「ありがとうございます。頑張ります」

 どこか吹っ切れたような、晴々とした表情で、伊之介は頭を深々と下げた。
 政吉が、懐から袱紗に包んだ切り餅を取り出す。

「まことにありがとうございます。お布施としてになりましょうか、どうぞ、お納めください」

 袱紗を解いて恭しく捧げ持った手の上の金に、木の葉は、う~ん、と首を傾げた。

「いつもの馬鹿な願いを言いに来るお客には、随分吹っかけるんだけどねぇ。あんたはちょっと、わけありだし。お悩みも苦しみも並大抵じゃないしねぇ」

 木の葉にとって、元々金などあまり価値はないのだろう。
 悩み相談として稼いだ金も、数あるお堂の修復などのために、賽銭箱に入れておくらしい。
 実際修復してくれるのは、ここの人間だからだ。

 あとはおやつを買いに行ったりするために、少し取っておくという、何とも庶民的なことを言っていた。

「それに、随分と面白い案件と引き合わせてくれたしね」

 袖で口元を隠し、ぷぷぷ、と笑いながら貫七を見る。

「だから、礼はそんなにいらないんだよね。元々お悩み相談ってのは、おいらの修行でもあるんだし。奥の院でお参りして、あとは参道のおかきでも寄進してちょうだい」

『油揚げじゃないんだ』

「油揚げはねぇ、今ちょっと飽きてんの。脂っこいからさ、食べ過ぎると胃もたれするし」

 おりんの突っ込みに、本当に神狐なんだろうか、という答えを返し、木の葉は伊之介と政吉に手を振っている。