「ねぇ。あんたの母親はさ、間違ってるんだよ」

 言いつつ、伊之介のすぐ前にしゃがみ込む。

「いくら娘さんが死んじゃったとしてもね、生きてる子供の人生を壊してまで、身代わりにしていいわけじゃないんだよ。まして己の子だろ? だったらちゃあんと、現実を受け入れないと駄目なんだよ。一人しか愛さないなんて、折角生きてる残りの子も殺してるようなもんだ。あんたのその気持ち、ぶつけるといい」

 覗き込むようにして言われたことに、伊之介は驚いたように木の葉を見る。

「そ、そんなことしたら。ただでさえ、男の格好の私を見ただけで壊れるんだ。その上そんなこと言ったら……」

「大丈夫だよ。母親ってのは強いんだ。そりゃ相当な衝撃を受けるだろうけど、逆にそれぐらいの衝撃を受けないと駄目なんだよ、今は。でないと目は覚めない。あんただって、同じぐらい傷ついてきたんだ。子の傷は、親も負うべきなんだよ」

 じ、と見る木の葉の瞳は金色で、妖しい光が灯っている。
 木の葉の言葉は、不思議に伊之介の心に沁み渡っていった。

「……そんなことして、母上は大丈夫……?」

 ややあってから、伊之介が口を開く。
 何かに酔っているような、夢見心地のような瞳だ。

「大丈夫。一瞬だけは、荒れるかもだけど、あんたがさっきみたいな心の内をさらけ出せば、己の過ちに気付くだろうさ。でもあんたが気を確かに持つことが大事だよ」

 言いながら、木の葉が、そろ、と伊之介の額に手を当てる。