「この子、女になりたいんじゃなかったの? そういや女装もしてないね。話違うじゃん」

 空気を読まないのは狐故か。
 のほほんと貫七を見る。

「女になるのが一番簡単だっただけだよ。おいのちゃんも、覚悟を決めた。男に戻る努力をするって、昨夜決めたんだ。けどそれにゃ、諸々の問題がある。昨日説明した通りの、この店の問題が、何一つ解決しねぇんだ」

 正確には、一つは解決するかもしれない。
 跡継ぎ問題。
 だがそれは、周りの反応如何では解決する方向には進めないのだ。

 ああ、なるほどね、と木の葉が頷く。

「おいのちゃんが女装を止めなかったのは、母親が壊れるからってのもあるけど、母親に構って貰いたいって気持ちもあったんだな」

 呟き、貫七は木の葉を見た。
 人の心を操るに長けた狐だ。
 何とか策を授けて欲しい。

「ん~……。そうだねぇ。店の人とか、周りの人間の気を何とかするのは簡単だよ。今までのお嬢さんが若様だったってのを納得させればいいんでしょ? それぐらいは、まぁ。だから問題は、母君だよね」

 伊之介の肩を抱いていた政吉が、若干明るい顔になって木の葉を見た。
 周りの者の反応を気にしないでいいのなら、店に関しては解決したも同然だ。

「あ、ありがとうございます!」

 政吉が頭を下げる。
 それには答えず、木の葉は足元の伊之介をじっと見た。