それからすぐに女将に挨拶し、一行は宿を後にした。
 そういえば、特に木の葉と約束しているわけでもない。
 どの辺りに行けばいいのかと、とりあえず千本鳥居を歩いて行った。

「さすがにこの辺りは、神気が強いというか。吸い込まれそうな気になります」

 政吉が鳥居を見上げながら言う。

「怖いこと言わないでおくれ」

 少し前を歩いていた伊之介が、振り向いて言う。
 貫七はさらにその前を、足早に歩いていた。

「ちょっと待っておくれよ。私はそんなに体力ないんだよ」

 気が焦るばかりに、ともすれば二人とも置いていきそうな勢いで進む貫七を呼び止める。
 随分先のほうで、貫七が足を止めて振り向いた。

 そういえば、一番初めにお紺の茶屋で出会ったときも、伊之介の体調は優れないようだった。
 今までずっと女として、屋敷内で暮らしていたので、本当に体力はないのだろう。

『でも貫七。どこに行くんだい? 滝のところ?』

 肩の上のおりんが、まだ二人が追いつかないうちに、こそりと貫七に耳打ちする。

「う~ん、そうだな。あそこしか手掛かりはねぇし。でもおいのちゃんのあの調子じゃ、あそこまで行くのは一苦労だなぁ」

 滝は相当山奥だ。
 今の時点で結構へろへろな伊之介を連れて行こうと思ったら、相当時間がかかるだろう。
 早く行者の元へ帰りたい貫七としては、そんなに待てない。