「さぁ! 飯食ったら出かけるぜ! ていうか、出立だ!」

 あっという間に平らげた朝餉の膳をいそいそと片付けながら、貫七が政吉たちに声をかけた。
 幾分気は楽になったが、やはり不安は拭えない。
 早く帰りたい気持ちが先走り、貫七は遠慮なく政吉と伊之介を急き立てた。

「え、出立って? もうここを出るんですか?」

 朝餉を食べ終えて寛いでいた政吉が、驚いたように言う。

「当ったり前だろ。術者はいねぇんだし、もうここにゃ用はねぇ。おいのちゃんの方向性も決まったしな」

 その伊之介は、髷を降ろして、長い髪を後ろで一つに括っている。
 化粧もしていない。

「そうやってると、何か怪しげな魅力があるな。男なんだか女なんだかわからねぇ」

「そうですねぇ」

 政吉も、困ったように言う。
 男に戻れば己のこの気持ちも治まるだろうと思っていたが、化粧を落としても綺麗なものは綺麗だ。
 簡単に気持ちが変わるわけでもなく、どうしていいのかわからないのだろう。

「やっぱりすっぴんだと、何か恥ずかしい」

 伊之介のほうは落ち着かなさそうに、もじもじしている。
 丸っきりのすっぴんを初めて見たが、思っていたより幼いようだ。

「おいのちゃんて、いくつなんだい?」

「十四。頑張れば、まだやり直しはきくだろ?」

「そうか、そうだな」

 言いつつ貫七は、女将に頼んでいた旅装束を差し出した。

「おいのちゃんは、これに着替えな。折角の修行だ。でも女の着物しか持ってねぇだろ?」

「ありがとう」

「さ、じゃあ着替えが済んだら出立だ。稲荷山に行って、その足で帰るぜ」

 そう言って、貫七は膳を厨に持って行った。