「それじゃ、それこそこんなことしてる場合じゃないね。でも、兄さんがしっかりしないと。こういうときこそ、男がしっかりしないといけないんだよ」

 女将の強い瞳に、少し貫七の心が落ち着く。
 母親というものを知らないので、こういう慈愛の眼差しというものを、初めて見た。
 固かった貫七の表情が、自然と和らぐ。

「ありがとうよ、女将さん。そうだな、俺がしっかりしねぇと」

 少し笑って言った貫七に、女将もほっとしたように笑う。

「でも、羨ましいね。兄さんみたいないい男に、そこまで想われるなんて。どんな娘さんなんだか」

「ああ、違ぇよ。友達だ。幼馴染だよ」

 そうなの? と女将がきょとんとする。
 そして、先程から作ってくれていた弁当を、とん、と貫七の前に置いた。

「まるで恋人を想ってるようだったから。ふふ、でもま、幼馴染でも恋心を抱くもんかもだしね」

 軽く言って、片目を瞑る女将に、貫七は微妙な顔をした。