夜明け、まんじりともしないまま朝を迎えた貫七は、まだ暗いうちから起き出した。

『早いじゃん?』

 もぞ、とおりんが動いた瞬間、がばっと貫七に抱き上げられる。

「ああああ、生きてる」

 ぎゅうっとおりんを抱き締め、息をつく。

『何だい、大袈裟な』

「大袈裟じゃねぇよ! 昨夜なんざ、心配で寝られなかったぜ!」

 噛みつくように言う貫七に、おりんはまた、微妙な顔になった。
 確かに昨夜は、貫七はおりんを胸に抱いたまま布団に入った。

 おりんが離れようとしても、頑として離さなかったのだ。
 おりんの鼓動を確かめておかないと不安だったらしい。

「さぁ、さっさと山に行きてぇところだが」

 まだ日も昇り切っていない。
 当然政吉たちも起きていない。

 はあぁ、と大きくため息をつくと、貫七はのろのろと廊下に出た。
 宿の仕事を手伝えば、気も紛れるかもしれない。

 苛々しながら待つよりもマシだろうと、貫七は厨に向かう。
 客はまだ起き出していないが、宿の者は朝飯の用意もあるし、もう働き出しているだろう。

『大丈夫かよ、そんなんで』

 いつもより格段にのろい足取りで階段を降りる貫七に、おりんが声をかける。