両手で持ったおりんを顔の前に掲げ、貫七が叫ぶ。
 必死な表情の貫七の足元に、はらりと行者からの文が落ちた。

 そこには、おりんの身体の状態が書かれていた。
 何日か前から、おりんの身体が血塗れだというのだ。
 術者が見つかったのなら、すぐに帰ってこい、と焦った文字で書かれてあった。

「お前の……猫の身体は、何ともねぇな……」

 わしわしとおりんを撫で回しながら、貫七は呟いた。
 今手の中にいるおりんは、何ともないようだ。

「なぁ、ほんとに何ともねぇのか? 何か感じるとかねぇか?」

 貫七は言いながら、泣き出しそうな声になった。
 おりんがふと気付くと、己を抱く貫七の手が震えている。

『……』

 おりんは微妙な顔になった。
 だがおりんが黙っていると、貫七の不安は膨らむばかりだ。

『おいらは……何ともないから、大丈夫だよ』

「ほんとかよっ!」

 自分で聞いておいて、おりんの言葉に被る勢いで言う。
 実際に身体を見ている行者が、こんなに焦っているのだ。
 ただ事ではないはず。

 おりんの身体が危ないから、物凄い勢いで文を飛ばしたのだろう。
 後頭部に突き刺さりそうになった怒りも忘れて、貫七は必死におりんを見る。

『とりあえず、今ここにいるおいらは何ともない』

 きっぱりと言ったおりんに、貫七はやっと少し落ち着いたようだ。
 が、心配そうな表情は変わらない。

『とにかく、おいらのことも何とかなりそうなんだし、政吉たちも解決しそうじゃない。明日、木の葉様にお願いして、おいらたちはさっさと行者のところへ帰ろうよ』

「あ、ああ……。そうだな」

 今はとにかく、さっさと政吉たちのことをお願いして、行者の元へ戻ることが先決だ。
 やはり不安は拭えず、貫七はふらふらとした足取りで、部屋に戻った。