『どうしたのさ。珍しいじゃん?』

 二階の部屋に入り、襖を閉めるなり、ついて来ていたおりんが貫七に声をかけた。
 思い切り人語である。
 だが貫七は特に驚くことなく、どっかと座る。

『あんな若ぇ娘さん目の前にして、お前が何もしないなんてさ』

 再びおりんが、貫七の膝頭に前足をかけて言う。

「あの娘さん、おかしいぜ」

 貫七の言葉に、おりんは少し首を傾げた。

「この俺に、何の反応もしないなんて」

『……馬鹿か。何言ってるんだか』

 貫七の膝頭に置いていた前足で、おりんは、がり、と彼の足を引っ掻く。
 ささっと膝を引っ込め、貫七は口を尖らせた。

「だってよ、あんなうだつの上がらなそうな男と一緒にいたんだぜ? あんな野郎しか見てないところへ、俺が現れてみろ。女子であれば、舞い上がるぜ」

『ほんと、いい性格してるよ。真顔でそういうこと言うの、あんたぐらいだよね』

「当然だ。事実を言ったまでよ」

 おりんの皮肉にも怯まない。
 それ以上言う気も失せ、おりんはその場に丸まった。