「そ、そのようなことはっ……」

 ない! と言う言葉を、政吉は呑み込んだ。
 そうかもしれない、と小さくなる。

 根が素直なだけに、思っていることがすぐに態度に出てしまう。
 だからこそ、一番初めに貫七が感じたように、伊之介のことを疎んじる気持ちもどこかにあり、それが時折出てしまうのだろう。

「で、ですが。若様の本当のお心をお聞きした今は、自分の考えは間違っていたと思います!」

「間違いではないわさ。私だって、我が儘言うことで鬱憤を晴らしてたんだし。……まぁでも、それでもお前が仕えてくれたのは、良かったと思ってるよ。正体を知ってるのがお前で良かった」

 にこ、と笑みを向ける伊之介に、政吉が頬を染める。
 状況だけ見れば、それなりに綺麗なお嬢さんに微笑まれているのだから、政吉が赤くなるのもわかるのだが、お嬢さんは男なのである。
 ちょっと、貫七は眉間に皺を寄せた。

「あ、あのさ。確かに政吉さんは、おいのちゃんによく仕えてるよ。店のことも、おいのちゃんのことも、多分誰よりも考えてるだろう。俺がおいのちゃんを女にしようって言ったのぁ、まぁそれが一番簡単な方法だと思ったからだが、政吉さんのこともあったからなんだぜ?」

 貫七が、ちらちらと政吉を窺いながら言う。
 伊之介が、少し首を傾げて貫七を見た。

「おいのちゃんの女装は完璧だ。この俺が、見破れなかったぐらいだし。それがなぁ、返って問題を引き起こしてるんだな」

「ああ、誰も私が男だって知らないってこと?」