最後のほうは、声が小さくなる。
 政吉が、目を見開いてお嬢さんを見た。

 この我が儘お嬢さんが、店のことを考えているとは思っていなかったのだ。
 女装も半分は趣味が入っていると思っていたし、何も考えていない道楽者だという考えがあった。

 だが、そうではなかった。
 政吉でも気付かないほど、悩みは深かったようだ。

「わ、若様。そこまで悩んでおられるのに、気付きませんで……!」

 がば、と政吉が頭を下げる。

「一番近くにいると自負しておきながら、情けない限りです。結局私も、若様のことをちゃんと見ていなかった。そんなに悩んでおられたのでしたら、打ち明けてくだされば、お力になりましたのに」

 項垂れ、涙を流さんばかりに悔しがる。
 お嬢さんのほうは、そんな政吉に軽く手を振った。

「あんたは真面目だから、あんまり真剣に話したら、仕事に差し障りが出そうだろ? 折角丁稚から手代になれたんだ。今でこそ他の者らの信頼も篤いけど、昔は嫉妬故の敵も多かったしね。ま、時期を見て相談しようとは思ってたけど、それも何かずるずる……」

 はぁ、とため息をつく。
 お嬢さんも、基本的に厄介事は嫌いなようだ。
 出来れば避けて通りたいのだろう。

「いい加減、何とかしないとって言う時期に、あの女が現れた。考えようによっちゃ、願ったりだよ。私の進退も、この機会に決めちまおう」

 何か吹っ切れたように、お嬢さんは二人を真っ直ぐに見た。