「跡取りは男です。初めに産んだ男の子は、すでに立派に店を継いでいる、とでも思っているのでしょう。とにかく娘がいなくなったことが大きいので、そこまで気は回らないのではないですか? 若様を犠牲にしていることにも、気付いていないのですし」

 息子を娘と思い込み、狂喜した奥方は、以来べったりと息子にくっつき、嬉しそうに世話をしたという。
 目を離したら、またいなくなってしまう、という恐怖からか、片時も離れず、息子を娘として飾り立てて楽しんだ。
 そうすることによって、ようやく奥方は普通の生活を取り戻したのである。

「妾を囲ったのは、そういうこともあってのことかい」

「そうでしょうね。旦那様も、困っておりました。そろそろちゃんと跡取りとして育てたいのに、若様を男に戻すと、また奥方様が壊れるんじゃないかと思うと、どうしても踏ん切りがつかない。それにもう、世間は若様をお嬢様として認識してしまっております。事情が事情なので、外に説明も出来ません。八方塞がりで疲れていたところに、あの女が入り込んできたわけです」

 なるほど、と貫七は息をついて天井を仰いだ。
 このお嬢さんも、なかなか苦労してきたようだ。
 母親のために、女装を続けてきたのか。

「お嬢さんもよ、嫌じゃなかったのかい? そりゃあ母親が穏やかであるほうがいいだろうが」

 貫七が問うと、お嬢さんはしばし固い表情のまま黙っていたが、ふぅ、と一つため息をついた。