「ええ? そんなに忙しかったのかい? もう、言ってくれれば弁当ぐらい、用意してあげたのにさ」

「いやぁ、さすがにそこまで甘えちゃ悪いぜ。こうして女将さんの美味い飯を食わして貰うだけでも、十分にありがてぇ」

 にっこりと笑い、ご馳走様、と手を合わす。
 おりんも、にゃうぅ、と鳴いて、ぺこりと頭を下げた。
 厨の女連中は、女将を初め、軒並み貫七の笑みに骨抜きにされ、おりんの可愛い仕草にめろめろになる。

「ああもぅっ! そんな水臭いこと、いいんだって! もぅもぅ、兄さんの面倒なら、何だって見てやるんだから! ちゃあんと働いてくれるし、宿代なんか、いいんだからねっ!!」

 女将が真っ赤になり、身を捩りながら叫ぶ。
 女中連中も、寄ってたかっておりんを撫でまわす。
 もみくちゃにされながら、おりんは密かにため息をついた。

---ああ、おいらも貫七の誑しが伝染(うつ)っちまったかも---

 とはいえ、猫がすると可愛い態度を取るだけであるので、己が人であった場合は適用外だろうが。

「さて。一息ついたし、手伝うぜ。薪を運んで、風呂沸かして来るな」

 ひょい、とおりんを肩に担ぎ上げ、貫七は腰を上げた。