「そろそろおいらも、そんな仕事引退したいんだよね~。結構しんどいんだよ? なかなかこっちの話聞いてくれない人もいるしさ~」

 ぶちぶちと言う木の葉に、またも話が逸れていることに気付いたおりんは、再度ばし、と床を叩いた。

『だから今はそういうことじゃなくて! えっと、てことは、単なる女の思い込みってやつ?』

「そう……いうことかなぁ。ま、女にしてみりゃ噂の術者に『願いは叶う』て言われたんだから、もうすっかり大丈夫って気になっちまったんだろうなぁ」

 貫七が、顎を撫でつつ言う。
 思い込みの激しい者は、時に自分の考えを、あたかも本当にあったことのようにすり替えることもある。

「つくづく、厄介な奴を選んだもんだなぁ、政吉のとこの旦那は」

 うんざりと、貫七がため息をついた。
 これで産まれてきたのが女だったら、ここまで乗り込んできそうだ。

「木の葉さんよ。これで女が産まれた日にゃ、あんたの身が危ういぜ」

「知ったことかい。そんときゃ、とんずらさね」

 つん、と木の葉がそっぽを向く。
 う~ん、と貫七とおりんは考えた。
 これで桔梗屋の先はどうなるか、全くわからなくなった。

 産まれてくる子が男なのか女なのか。
 性別を変えることは出来ないということで、お嬢さんはどうすればいいのか。
 政吉の秘めたる想いは。

「どうすればいいんだぁ!」

 自分たちには関係のないことなのに、問題が山積みだ。
 いっそのこと、逃げ出してしまいたい。

 もう義理がどうのとかかなぐり捨てて、このまま行者の元へ帰ってしまおうか。
 ちらりと湧いた黒い誘惑を、良心の欠片が抑え込む。
 息を付き、貫七は考えをまとめることに専念した。