「狭いですけど、一休みなさったらいかが?」

 お紺が茶屋の戸を示して促す。
 ちらりと、女子が顔を上げた。

 戸を見、次いで連れを見る。
 連れのほうも、少し迷ったようだが、この先は山越えになるので危険である。

「では、お言葉に甘えて……」

 そう言って、連れのほうが女子に手を貸し、お紺の後に続く。
 貫七は身体をずらして、戸の陰からその様子を見た。

---へぇ……---

 貫七の、悪い虫が疼きだす。

「娘さん、何か困ったことになってるんだったら、この貫七が力になりますぜ」

 ずいっと身を乗り出した貫七に、娘が顔を上げる。
 小さく『まぁ』と呟いたが、今まで散々見てきた反応ではない。
 すぐに娘は、顔を伏せた。

「いきなりご厄介になって、申し訳もありません」

 連れのほうが、手を付いて頭を下げる。

「あ、いえ。ささ、気兼ねせずに、火にあたってくださいましな」

 お紺がいそいそと、部屋の真ん中の囲炉裏へと娘を促す。
 貫七の下心に動かされなかった娘に、安心したようだ。

「今、お茶でも淹れますから」

 立ち上がろうとしたお紺だったが、ふと娘の顔色の悪さに目が行く。
 お紺が口を開こうとした途端、娘はその場に倒れ込んだ。