「いや、普段こういうところに籠っておると、なかなか下界のことに疎くなっての。木の葉にいろいろ聞くこともあるのじゃが、そこまでどろどろなものは初めてじゃ」

「そういや、ここはどこなんで?」

 今更ながら、貫七はふと思いついて辺りを見回した。
 といっても堂の中なので、外の景色は見えないが。
 先ほどお札を飛ばしに出たときも、気が急いていて景色などは目に入らなかったのだ。

「おや、ほほ。そういえば何も言っておらなんだな。ここは一ノ峰じゃ。稲荷山の天辺じゃな」

 貫七もおりんも、ふーん、と呟いただけだった。
 どこか、と聞いてはみたものの、具体的に言われたところで、ぱっとわかるはずもない。

 とりあえず山の天辺なのだ、とだけ理解し、じゃあ宿に帰るのも結構大変かも、と心配する。
 そんな貫七の心を察したのか、小薄が軽く言った。

「ま、帰りは送ってやるから安心おし。ところでその陰間の件じゃが」

「いや、別に陰間じゃねぇんで」

 お嬢さんの名誉のために、一応否定しておく。
 貫七のことはともかく、お嬢さんは男が好きなわけではない。
 それに、別に陰間は女装してはいないのだ。

「そうか。陰間であったら、何も性別は変える必要もないわな」

 うん、と頷く小薄だが、問題はそこではない。
 黙って話を聞いていた木の葉が、う~ん、と頭を抱えた。