『ふざけてる場合かよ。そろそろ宿に戻らないといけないんだし、言い訳を考えないと』

「ん? 宿? そんなところに帰らんでも、ここで待てば良いではないか」

 小薄が不思議そうに言うが、貫七とおりんは、う~む、と腕組みして考え込んだ。

「宿の女将さんたちにも、礼は言わねぇとな。支払いはともかく」

 支払いは端から政吉に押し付けるつもりだ。
 元々自分の分は、労働で支払っている。
 だが女将をはじめ、女中連中に好かれているため、黙っていなくなったら、いらぬ騒ぎになる恐れもある。

「義理は通しておかねぇとな」

「ふむ、そうよな。なかなかに義理堅いところも気に入った」

 そんな良いことではないのだが、詳しく知らない小薄は、扇を口に当てて、うんうんと頷いた。

「ただ、一緒に伏見に来た連れがおりやして。そいつがちょいを訳ありなんでさぁ。男なんですがね、ずっと女で通してきてるんで」

 そう前置きし、思いっきり引いた木の葉を横目に、貫七は政吉とお嬢さんのことを話した。
 よっぽど面白い案件なのか、話す程に小薄は前のめりになり、周りの白狐たちの輪も、気付けば縮まっている。
 木の葉だけは、そういった商売をしていたせいか、落ち着いて貫七の話を聞いていた。

「ほおぉ~。人の世界は、なかなかに陰謀が渦巻いておるようじゃのぅ」

 一通り話を聞き終えて、小薄は感心したように身体を戻した。