「……?」

 特に殺気などの妙な気は感じない。
 閂を外し、貫七は細く戸を開いた。

 その途端、戸の向こう側で影が動いた。
 動いたのだが、攻撃態勢に入ったわけではない。

 逆である。
 思い切り驚いたようだ。

「何だい、あんたら」

 すらりと、貫七は戸を開けた。
 そこには旅装束の二人連れ。

「旅籠は手前だぜ。あんたら、通ってきただろうが。見落とすような寂れた宿場じゃねぇぜ?」

 腕組みをして言う貫七の後ろから、お紺がそろ、と顔を出した。
 そして二人連れを見るなり、貫七を押しのける勢いで走り寄る。

「まぁっ。一体どうされたんです。このような夜になってしまうと、宿場とはいえ、なかなか戸を開けて貰えませぬ。それで難儀しているのでは?」

「おいお紺ちゃん……」

 見も知らない旅人に不用意に近づくのを止めようとした貫七だったが、お紺がそのような態度に出たわけが、すぐにわかった。
 二人連れのうち、向こう側に蹲るようにしていたのが、若い女子だったのだ。

 しかも、一見して庶民ではなさそうだということがわかる。
 一緒にいる連れも、それなりの格好だ。
 かどかわしなどではないだろう。