「怖いのぅ。このわしに、そんな態度を取れる人間がおるとは。純粋な心から生まれる怒りだから、いかなわしでも、背筋が寒くなるわ」

 貫七の頭には、おりんのことしかない。
 相手を想う必死さから出た綺麗な想いは、不快なものではないのだ。
 特に貫七の態度を咎めることもなく、小薄は周りの白狐たちに、何事か命じた。

「とはいえ、先のように追い払われたのでは堪らん。いや、実際わし自身が対峙すれば、太郎坊とて何ほどのものでもないが。不要な争いは避けたいしの。元々妖(あやかし)同士というのは、相容れないものなのでの」

 小薄が渋るのは、そういうことがあるかららしい。
 いくら同等の妖同士であったとしても、攻撃されればイラッとする。

『あ、そうだ。貫七、お札』

 おりんが、思い出したように貫七の懐に前足を突っ込んだ。
 行者との連絡用に、お札を貰っている。

「そうだ。あれを使えば」

 ごそごそと懐を探り、貫七は小さな袋を取り出した。
 その中から、古いお札を引っ張り出す。

「師匠が、もし術者が見つかったら、これで連絡しろってくれたんでさぁ」

 貫七が差し出したお札を、小薄は、じ、と見た。
 僅かに顔をしかめる。

「……う~む、確かに天狗の妖気が染みついておる。やっぱりお主が太郎坊の弟子、というのは間違いなさそうじゃ」

 同じ人外でも、妖気の種類は違うらしい。

「ではそれをもって、術者が見つかったと伝えるがよい。……いや、術者というだけだと、人と思うじゃろうな。稲荷のお狐様、でわかるじゃろ」

 相当な地位のはずなのに、えらいざっくりした自己紹介だ。
 いいのだろうか、とおりんは思ったが、貫七は気にせずいそいそと、木の葉が用意した筆で、言われた通り行者に文を書いた。