「ちょっと待てよ。俺は用心棒だぜ。用心棒を夜に縛り上げておいて、何の意味があるってんだ」

 ぐ、とお紺が言葉を詰まらす。
 横でお由が、『ろくに働きもしないくせに』と小さくぼやいた。

「全く、お紺ちゃんは男ってものをわかってねぇ。お紺ちゃんみたいな別嬪さんが傍にいて、おあずけ食らうことほど辛ぇことはないんだぜ?」

「も、もぅもぅっ! いいいいいいい加減にしてよぅっ」

 真っ赤な顔で喚くお紺に、力任せに抱き締められ、おりんは少し焦ったように暴れた。

 そんな騒がしい夕餉が終わる頃、不意に今までへらへらしていた貫七の目が鋭くなった。
 戸を振り返る。

 同時に、微かに外で物音がした。

「……誰だい」

 片膝を立て、一歩前に出てお紺とお由を背後に回す。
 おりんがお紺の膝の上から降り、貫七の横に移動した。

 しばらくそのまま様子を窺ってみたが、何事も起こらない。
 貫七はおりんと顔を見合わせ、おもむろに立ち上がった。

「か、貫七さん……」

 思わず腰を浮かせたお紺に、口の前で人差し指を立てて見せ、貫七はそろりと土間に降りた。
 ぴたりと戸の横につけ、外の空気を読む。