ぽかんとその場にへたり込んでいた貫七だが、周りの雰囲気に、何となく状況を察し、そろそろと頭を下げた。
 なかなか賢い男じゃ、という呟きが聞こえる。

「愛宕山・太郎坊が弟子、貫七にございます。これは、りん。わけあって猫の姿ですが」

 貫七だって、ちょっと普通の人間とは違うのだ。
 状況だけ見れば、今自分が為すべきことぐらい、すぐに理解する。

 驚きも、そうない。
 先にあの少年が正体を見せてくれたこともあり、目の前のこの青年が、少年言うところの『上役』なのだろうと見当をつけた。

 周りの白狐の態度からしても、相当な地位の狐なのだろう。
 そういえば、『ここの狐を統べる』とか言っていたような。
 失礼のないよう、貫七は丁重に名乗った。

「ほぉ。太郎坊、とな」

 少し、青年が身を乗り出した。

「てことは、お前は京の中程の人間か」

「や、本山じゃねぇんで。もっとずっと北のほうの山でさぁ」

「なるほどの。愛宕山は多いからの」

 ふむ、と青年は身体を戻し、再び扇を弄んだ。

「あのぅ……。師匠をご存じで……?」

 そんな話をしに、わざわざ呼んだわけではないだろうに、向こうが喋らなければ間が持たない。
 とりあえず貫七は、先の話から話題を振った。