「えええええ? ……何でぇ~~~?」

 思いっきり訝しげな表情で、少年が下からじいぃ~~っと貫七を覗き込む。

「当たり前だろ。そんな、人柱みたいなこと出来るかよ。俺はおりんと、ずっと一緒だったんだ。大事な家族なんだよ」

 おぅ、と今度は、少年が仰け反った。
 もっともこっちは、大袈裟に表現してみせただけのようだが。

「うん、まぁねぇ。確かに大事な家族を妖怪にゃ差し出せねぇわな。いや、それはわかるけどさぁ、おいらが驚いたのは、最後の部分さね」

 やれやれ、というように肩を竦めて、少年は、ずい、と再び貫七を覗き込んだ。
 その瞳に、妖しい灯が点っている。

「その子のためなら、命を投げ出すのも厭わないってかい?」

 ぞく、と貫七の背筋を、寒気が走った。
 心なしか、辺りが暗くなったようだ。
 ざわざわと、木々がやけに騒いだ。

『か、貫七……。駄目だよ……』

 小さく、おりんの声が貫七の耳に届いた。
 おりんは貫七にぴたりとくっつき、小さく震えている。
 ごくりと、貫七の喉が鳴った。

 ここは稲荷山。
 対峙している少年の顔が、不意に縦に長く伸びた。

 鼻と口が前に突き出、目がつり上がる。
 狐そのものだ。
 ここで頷けば、即座に心の臓を食い破られそうだ。

 だが。

「……ああ、いいぜ」

 少年を見据え、貫七はきっぱりと言った。
 その途端。

『いいだろう。お主の心、しかと聞き届けた』

 どこからともなく声が響いたと思うと、ごぅっと風が吹いた。
 木の葉が舞い、貫七を包む。

 あまりの突風に、貫七が両腕で顔を庇った瞬間、ぶわ、と身体が宙に舞う感じがし、慌てて貫七はおりんを抱き締めた。