「そういえばねぇ、貫七さん。夕方辺り、何か宿場のほうが騒がしかったみたい」

 夕餉の膳を前に、お紺が口を開いた。

「嫌ねぇ。罪人でも流れ込んだのかしら」

「そんな話は聞かねぇがなぁ」

 味噌汁を啜りながら言い、貫七はお紺に笑顔を向ける。

「不安なら、今夜は添い寝してやろうか?」

「んなっ何言ってんのっ。もぅっおりん!」

 真っ赤になって、お紺は部屋の隅で小さな茶碗に顔を突っ込んでいたおりんを引っ張った。

「ご心配なくっ! か、貫七さんに添い寝して貰うぐらいなら、おりんと一緒に寝ますからっ」

 ぎゅうっとおりんを抱き締めるお紺に、一瞬だけ貫七は微妙な顔をした。
 が、すぐにいつもの軽い雰囲気が戻る。

「ふふ。まぁいい。そのうち我慢出来なくなったら、忍んでいくさ」

「~~っ!」

 おりんを抱き締めたまま、ふるふると震えるお紺に、にやりと笑う。

「お由っ。二階の襖に、閂を取り付けてっ」

「襖は南京錠に耐えますかいのぅ」

「じゃあこれから夜は、貫七さんを縛り上げておきましょう」

「そのほうが、よろしゅうございますな」

 うんうんと頷きながら、土間にある荒縄に目をやるお由に、貫七は少し後ずさった。
 この老婆ならやりかねない。
 何せ、嬢様第一の忠義者だ。