「滝は……あの辺りなんだが……」

 へろへろになりながら、貫七が先を見る。
 周りは相変わらず鬱蒼とした木々に覆われている。
 涼しいのはいいのだが、不気味に薄暗い。

「つか、人っ子一人いねぇじゃねぇか。こんなんじゃ、商売あがったりじゃねぇのか」

 評判の術者というのに、不安になるほど人がいない。

「迷ったんじゃねぇだろうな。いや、実は術者なんぞいねぇんじゃ。つか、こんな不気味なところ、女子なんざ来られねぇだろ」

 べらべらと文句を垂れる貫七の肩の上で、おりんもきょろきょろと周りを見渡した。

『確かにねぇ。おいらも一人だったら、ちょっと躊躇う。貫七、怖くないの?』

「怖かねぇよ。一人じゃねぇもん。それに、お前を戻せるってんだったら、こんなもん一人だって、ちょろいもんだぜ」

 その言葉だけで、おりんは怖さも和らぐ。
 ただでさえ、おりんは貫七の肩の上だ。
 置いて行かれる心配はない。
 足元などを気にする必要もないため、貫七よりもよく周りを見ていられる。

『あ、あれじゃないか?』

 指を細かく動かせないため、にゅ、と前足を差し伸べるおりんに、貫七が顔を上げた。
 かろうじてあるけもの道の横に、これまた見落としそうな、小さな石段がある。
 その先に、滝らしきものが見えた。