四ツ辻まで登ったところで、貫七は岩に腰掛けて水を飲んだ。

「ふぃ~っ。ここまででも、結構な山登りだな」

 ぐい、と額に浮いた汗を拭う。
 そして持っていた荷物の中から、小さな竹の器を取り出し、そこに水を入れた。

「ほれ。飲みな」

 竹の器を足元に置くと、肩に乗っていたおりんが、ぱっと飛び降りて水に口をつけた。

『ここから、もっと上がったところなんだろ?』

「ああ。右側に逸れて、ずっと上がって行くみたいだな」

 宿の女将が持たせてくれた握り飯を頬張りながら、山を見上げる。
 結構鬱蒼と木々が茂っていて、見通しは良くない。

「さて。どういう奴なんだかな」

 呟く貫七の膝に飛び乗ったおりんは、三つある握り飯のうち、小さめの一つにかぶりつく。

『うん、美味い。いっつもいっつも猫まんまじゃ、おいらだって飽きちゃうからね』

 久しぶりに食べる普通の飯に、おりんが満足そうに言う。
 貫七はそんなおりんの小さな頭を、わし、と掴むように手を置いた。

「もうちょっとだぜ。そうだ、戻ったら、まずは美味いもん食べに行こう」

『うん』

 ほのぼのと握り飯を頬張り、一人と一匹は早くも戻ったときのことを、あれこれと夢想した。