自分にもうちょっと勇気があったら、りんを助けられたかもしれない。
 そう思うと、どうしてもりんを元に戻したい、との思いに駆り立てられ、じっとしていられなくなるのだ。

---俺のこの風貌だって、りんがあの状態であればこそ、なんだよな---

 貫七の、この人間離れした美しさは、文字通り人のものではない。
 人二人分なのだ。
 この辺りはよくわからないが、行者の言うところによると、りんの人間的風貌は、貫七に移ったらしい。

 そもそも貫七は、それなりに整ってはいたが、さほど抜きん出た風貌ではなかった。
 りんも、男にしては可愛らしい子供であったが、その程度だ。
 それが合わさって、人ならざる美しさになったというのだ。

『まぁ、見目良いほうが、何かと好都合じゃろ。お前の場合は、男じゃからなおさらじゃ。女子なら少々難儀じゃが』

 特に何と言うこともないように、軽く言って行者は笑った。

---確かに、見目良いほうが簡単に事が運ぶな。宿にあぶれる心配もねぇし---

 ふふ、と笑う。
 幼い頃はよくわからなかったが、この歳になれば女子の扱いも慣れてくる。
 それなりに楽しみつつ、宿や飯にありつけるのだ。

---早くりんを戻してやらにゃ、こんな良い思いもさせてやれねぇな---

 へらへら笑いながら、よっこらせ、と野菜の乗った籠を担ぐ。
 十年の旅で、すっかり擦れてしまった貫七なのであった。