一方貫七のほうは、少し顔をしかめた。
 お嬢さんが、多分そう思うだろうことを見越して、わざと顔を向けたのだが、通常これは、女子に使う手だ。
 相手に期待を持たせて、言葉は悪いが言いなりにする。

 が、『期待を持たせる』ということは、貫七の気がそちらに向くかも、ということだ。
 つまり、お嬢さんの場合は、貫七に衆道の気(け)がないと当てはまらないはずなのだが。
 そこに気付かないほど、お嬢さんは女になりきっている。

「とにかく、そういうこった。……政吉さん、ちょいと」

 食べ終わった膳を片しながら、貫七は政吉を促した。
 おりんをお嬢さんの元に残し、貫七は膳を持って、政吉と部屋を出る。

「あのさぁ。この際、あんたの本心を聞いておこうと思う」

 厨に寄った後で、貫七は、いつもおりんと話をする厠の裏で切り出した。

「お嬢さんが女になってもいいって了承したことで、あんたの苦悩も、多分店の悩みも、当面はなくなったんじゃねぇか?」

 少し、政吉は考えた。

「そう……ですね。おそらく本当に若様が女性になれば、もう大っぴらに表に出られますし。私も店で、仕事に戻れますしね。店の跡継ぎのことは、若様に婿を迎える、という道が拓けるわけで、まぁ問題が全く払拭されるわけではないかもしれませんが、普通の商家の悩み程度には収まりますね」